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トンボの旅寝 【歯界時報(表紙の写真) 2007年8月 No.628】
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一期一影 【歯界時報 2007年1月 No.621】
深い海の中で、おいしそうなエビがふわふわと目の前を通っていくのを見て、そのエビに細い糸と針が付いていてその糸が250メートル先の10メートルあまりの小さな釣り船に乗っている見知らぬ赤いセーターの男の釣竿まで続いていることを、いかに鯛が賢明であっても想像することはできなかったであろう。
鯛の浮き流しの釣りでは、人の背丈程の長い大きな浮きを使用し、電動リールを使って、船べりから潮の流れに乗せてまき餌カゴ付きの仕掛けを、200メートルから300メートルも流して釣る。波が高い時は、200メートル先の浮きは波にかくれて見えたり見えなくなったりして、魚が食ったのかどうか判断しにくくなる。
平成5年4月4日、長崎県野母崎沖で夜明けと共に釣り船から仕掛けを流し始める。早朝7時過ぎ260メートル程流したはるかに遠くに見えていた小さな小さな浮きの頭の赤と黄色の目印しが海面から全く見えなくなる。海中に沈んでしまったのだ。電動リールで巻上げを開始し、糸がピンと張ったところで竿を天上まで持ち上げて、大きく合わせを入れる。200メートルも先で魚に合わせを入れるには大きく竿を振り上げなくてはならない。それから猛スピードで糸を巻き上げる。あまりに重いせいか電動リールが悲鳴を上げ始めた。岩を引いているように重い。手で竿をしっかり持ち巻き上げること20分。海面に上がってきた鯛は長さ85センチ7.5キログラムの大物であった。写真は同行されていた元県歯会長の持山先生に撮影していただいたものである。
家に持ち帰り家族で刺身にし、煮付けにし、骨蒸しにして食すること、一週間。全部食べるのにそれ位かかった。大きな目玉も食べましたが、大き過ぎたためか二、三日消化不良で苦しむことになってしまった。それでも海の幸のすばらしさに感謝の気持ちでいっぱいだった。
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夕暮れの昇開橋 【歯界時報(表紙の写真) 2006年3月 No.611】
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上皮付き結合組織移植の難しさ 【歯界時報 2004年12月 No.596】
歯肉移植は我々が講習を受けた頃は、遊離歯肉移植がほとんどで何度か行ってきたが、その結果は移植した歯肉がはっきり浮き出た状態になりやすく、審美的なものではなかったし、患者の満足度も低かった。
今回上皮付き結合組織移植が審美的であるのを本で読んでトライしてみることにした。かねてから下顎犬歯部の歯根露出を訴えていた患者に応用してみることにした。下顎前歯部の付着歯肉は上顎に比べて薄いのでここにエンベラップ状の切開を加えるのはまず難しい。上顎の臼歯部口蓋から上皮付きの結合組織を切り取ってくるのはさほど厄介ではないと思われた。受容創の長さに合わせて口蓋部の歯肉の幅と長さを平行測定器などで十分にチェックしておく必要がある。移植片が時間とともに萎縮していくことも計算に入れておく必要がある。移植片を入れておくシャーレ内のガーゼに十分に冷やした生理食塩水を入れておく。
根面をアクロマイシンの飽和溶液で処理した後、手術を始めてまず戸惑ったのはエンベラップ状の切開を加える時15Cのメスの先端が骨面を拾いやすく、思うように動かしにくいことであった。何度か骨に当たったためにメスの刃先は思ったよりダメージを受けていたらしい。というのは、そのメスをそのまま口蓋部の切開に使用した時、切れあじが悪いだけでなく、深部までメスを入れるので、出血がひどいのである。出血がひどいと、切り取らなくてはならない歯肉片の幅や長さを冷静に考慮することができないのである。術者もアシスタントもあわててしまって、早く切り取って縫合して止血しようと思ってしまい、幅や長さや形態を考える余裕がなくなってしまうのである。
切り取った移植片は長さが約25ミリメートル、上皮の幅は1.2~1.5ミリメートル、しかし柔らかい結合組織が十分に付いていないのである。患者が女性で結合組織が薄いせいもあるが、25ミリのうち10ミリくらいは結合組織がほとんどない状態であった。ピンセットで摘んで引っ張りながら切り取っていくので、幅や形態を揃えるのは結構難しい。封筒状の切開創に移植片を置いて慎重にバイクリル・ラピッド(吸収性縫合糸)で乳頭部に縫合し固定する。三箇所で固定した後、封筒状の歯肉弁をその上に被せて、頬側から舌側に刺入して単独縫合する。三箇所の縫合が終われば手術は終了である。
翌日、白濁し始めた移植片を見て、駄目だったかと失望した。4、5日して懐死した上皮が落ちてしまい、一週間後抜糸して様子を見てみると、結合組織が付いていた移植片を置いた部位に増殖し始めた歯肉が観察された。二歯に移植したがうまくいったのは、一歯だけだった。
反省点は多いが、受容側に使用したメスを供給側にそのまま使用しないこと、口蓋歯肉に切開を入れた時出血が多いからといって慌てないで圧迫して止血を図りながらメスを入れる深さや方向を考えて十分な量の組織を獲得することが重要であることが分かった。
この手術は今後ますます有用性を持つ事が考えられるので、より詳しい解説書が出される事を期待したい。
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ブレードインプラントの摘出 【歯界時報 2004年8月 No.592】
昔、患者さんに埋入したブレードインプラントを撤去してやり直すことになった。動揺し始めて用を成さなくなったからである。12年くらい経ったかなと思って調べてみると17年経過していたので驚いた。大した沈下もなく大きな骨吸収もなく痛みもなく、17年もよく働いてきたと思う。
このインプラントは若い先生方はご存知ないと思うが、形状記憶インプラントなのである。埋入する時、氷を入れた生理食塩水の中に漬けて十分に冷やして蛸足のように左右に開いた脚部を、特殊なプライヤーで行儀よく真っ直ぐにそろえて、すばやく冷たい生食で冷やした骨窩洞内に挿入して所定の位置にプライヤーで押し込み、さらに外科用ハンマーで叩き込む。後は50℃前後の暖かい生理食塩水をシリンジで骨腔内に流し込んでやれば大きく開脚してびくとも動かなくなり、初期固定を簡単に得ることができる。
経験のない先生方には想像できないと思うが、冷やせば手で曲がるほど柔らかくなるのである。それでいてチタンなのであり、ダイヤモンドのバーで削ると火花が出るほど硬いのだから不思議である。
さて、このインプラントを摘出する時は、まず肩部を覆っている皮質骨を肩に沿って骨バーできれいに削除しておき、インプラントの頭部に氷の塊を5分くらい乗せておいてそれが溶けて歯肉に張り付いたなら、氷を取り除き、頭部をプライヤーでしっかり把持して、一気に引き抜けばよい。開いていた脚が閉じて出てくるのである。
もし諸先生方の中でブレードインプラントを摘出しなければならなくなった時、そのインプラントの形状が蛸足のように交互に開いていたなら、冷蔵庫に氷を作っておくことを忘れないでいただきたい。
必要以上に患者さんの骨にダメージを与えないためである。
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一つ一つの歯に愛情を込めよう 【西日本新聞 2004年6月30日掲載】
歯磨きは誰でもできる簡単なこと、と思ってる人が多いようです。しかし、上手に歯磨きをすることは、とても難しいことなのです。歯ブラシを歯に当てる圧力が弱くては、歯こうを取り除くことはできません。逆に強すぎると歯の表面を磨耗させたり、歯茎に「クレフト」という割れ目をつくったりしてしまいます。歯こうは取り除けても、歯を毎日少しずつ削り、歯茎を変形させたり萎縮させてしまっては、七十、八十年もの間使い続けることはできません。
磨く部分によって歯ブラシ二、三本を使い分け、「デンタルフロス」という歯と歯の間専用の絹糸や、針金にたくさんの毛をつけた歯間ブラシを巧みに使って歯磨きしている歯科医師でさえ、完全ではありません。口腔内カメラという小さなカメラで歯の表面を見ると、外からは見えない所で細菌の集団である歯こうの付着が観察されます。細菌たちの隠れ家は歯の周りに無数にあります。そのすべてを歯ブラシで清掃するのは、とても難しいのです。
歯ブラシの持ち方はいろいろありますが、大事なのは両手を使って磨くことです。利き手だけで全体の歯磨きをするのはとても大変です。右利きの人が右上の奥歯の内側を磨くのも右下の奥歯の内側を磨くのも難しいでしょう。左手でやると、ずっと楽にでき、効率も良くなります。左右の手を使い、左右対称に歯ブラシを使うように日々練習すれば次第にベストの歯磨きが身につくでしょう。
もっとも大切なことは、一本一本の歯の生活環境と病歴を考慮しながら、一本一本愛情を込めて磨くことだと思います。平たく言えば、それぞれの歯は生えてきたときから、何十年も使用する間に虫歯や歯周病、歯並びなどの個別の経歴を持っています。それを十分に考え、それぞれの歯にあった歯磨きを行うということです。
一般の人々には理解しにくいかもしれませんが、自分の口の中を鏡でよく観察すれば、それぞれの歯がどんな環境にあって、どんな健康状態かが分かってきます。よく分からなければ、かかりつけの歯医者さんに自分の歯の健康状態と注意すべき歯について細かく尋ねたらよいでしょう。
例えば、上のあごに5本の歯が残っていて、その中の一本がまるで広い高原の中の一本の大樹のように、上あごの奥に一本残っているとします。それに部分入れ歯の金具が掛かっていれば、この一本の大樹のような歯に、食事をするとき、どんな力が加わっているでしょうか。どんな歯磨きをすればよいかを十分に考え、実行すれば、歯の健康維持につながるでしょう。この大樹のような歯の健康を保つには、どんな道具を使えばよいか、どの部分が弱りやすいか、よく考えて手入れをしてください。
そのような考えに基づいて、歯こうの除去や歯磨きをすれば歯の健康を保つことができます。一つ一つの歯は、まるで山野の木々のように、一つ一つが違った環境の中にあり、違った性質を持っていることを忘れないでください。
こうしてベストな歯磨きができるようになれば、歯の健康を手中にしたと言っても過言ではないでしょう。
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ナイスショット 【歯界時報 2004年5月 No.589】
今から20年前、我がデンタルゴルフ会はその隆盛を極めたものであった。その後この和気藹々としたゴルフ会は斜陽の一途をたどり、若い会員は次第に経済的な理由て゛入会しなくなり、脱会する人も増加していき会員の数は激減していった。そして今では参加するプレーヤーの平均年齢は55歳まで上がってしまった。
そんな中年高年のゴルフコンペがこの間の3月の暖かい日にあった。インの11番の長いショートホールで70歳に近い大先輩は珍しくグリーン周りのバンカーから2回ホームランしてしまった。そのボールは反対側のバンカーを飛び越えて林の中の池の方へ飛んでいった。OBである。小生は気の毒に思ってバンカーの向こうに落ちたボールを拾いに林の中へ入っていった。
顔にかかりそうな枝を手で払いながら池の側の開けた場所に飛び降りた。その時である。目の前を黄葉した5枚程の葉がひらひらと黄色の枯葉でいっぱいの地面の上に落ちていった。しかしその5枚の葉のうちの1枚は地面に落ちる直前に30センチ程斜めに飛んで軽やかに着地したのである。その不思議な枯葉は黄色の葉の中に垂直に立っており、周りの葉とほとんど同じ色と同じ大きさをしていた。ただよく見ると木の葉には下の方に数本の細い足があった。そうこれは枯葉そっくりの蝶であった。擬態である。しかしどうしてこんな蝶にひらひら落ちる木の葉のまねができるのだろうか。これは小生にとっては大きな感動であった。
バンカーからのホームラン、それは小生にとってナイスショットであった。
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