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上皮付き結合組織移植の難しさ 【歯界時報 2004年12月 No.596】
歯肉移植は我々が講習を受けた頃は、遊離歯肉移植がほとんどで何度か行ってきたが、その結果は移植した歯肉がはっきり浮き出た状態になりやすく、審美的なものではなかったし、患者の満足度も低かった。
今回上皮付き結合組織移植が審美的であるのを本で読んでトライしてみることにした。かねてから下顎犬歯部の歯根露出を訴えていた患者に応用してみることにした。下顎前歯部の付着歯肉は上顎に比べて薄いのでここにエンベラップ状の切開を加えるのはまず難しい。上顎の臼歯部口蓋から上皮付きの結合組織を切り取ってくるのはさほど厄介ではないと思われた。受容創の長さに合わせて口蓋部の歯肉の幅と長さを平行測定器などで十分にチェックしておく必要がある。移植片が時間とともに萎縮していくことも計算に入れておく必要がある。移植片を入れておくシャーレ内のガーゼに十分に冷やした生理食塩水を入れておく。
根面をアクロマイシンの飽和溶液で処理した後、手術を始めてまず戸惑ったのはエンベラップ状の切開を加える時15Cのメスの先端が骨面を拾いやすく、思うように動かしにくいことであった。何度か骨に当たったためにメスの刃先は思ったよりダメージを受けていたらしい。というのは、そのメスをそのまま口蓋部の切開に使用した時、切れあじが悪いだけでなく、深部までメスを入れるので、出血がひどいのである。出血がひどいと、切り取らなくてはならない歯肉片の幅や長さを冷静に考慮することができないのである。術者もアシスタントもあわててしまって、早く切り取って縫合して止血しようと思ってしまい、幅や長さや形態を考える余裕がなくなってしまうのである。
切り取った移植片は長さが約25ミリメートル、上皮の幅は1.2~1.5ミリメートル、しかし柔らかい結合組織が十分に付いていないのである。患者が女性で結合組織が薄いせいもあるが、25ミリのうち10ミリくらいは結合組織がほとんどない状態であった。ピンセットで摘んで引っ張りながら切り取っていくので、幅や形態を揃えるのは結構難しい。封筒状の切開創に移植片を置いて慎重にバイクリル・ラピッド(吸収性縫合糸)で乳頭部に縫合し固定する。三箇所で固定した後、封筒状の歯肉弁をその上に被せて、頬側から舌側に刺入して単独縫合する。三箇所の縫合が終われば手術は終了である。
翌日、白濁し始めた移植片を見て、駄目だったかと失望した。4、5日して懐死した上皮が落ちてしまい、一週間後抜糸して様子を見てみると、結合組織が付いていた移植片を置いた部位に増殖し始めた歯肉が観察された。二歯に移植したがうまくいったのは、一歯だけだった。
反省点は多いが、受容側に使用したメスを供給側にそのまま使用しないこと、口蓋歯肉に切開を入れた時出血が多いからといって慌てないで圧迫して止血を図りながらメスを入れる深さや方向を考えて十分な量の組織を獲得することが重要であることが分かった。
この手術は今後ますます有用性を持つ事が考えられるので、より詳しい解説書が出される事を期待したい。
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