• 一つ一つの歯に愛情を込めよう 【西日本新聞 2004年6月30日掲載】

    歯磨きは誰でもできる簡単なこと、と思ってる人が多いようです。しかし、上手に歯磨きをすることは、とても難しいことなのです。歯ブラシを歯に当てる圧力が弱くては、歯こうを取り除くことはできません。逆に強すぎると歯の表面を磨耗させたり、歯茎に「クレフト」という割れ目をつくったりしてしまいます。歯こうは取り除けても、歯を毎日少しずつ削り、歯茎を変形させたり萎縮させてしまっては、七十、八十年もの間使い続けることはできません。

    磨く部分によって歯ブラシ二、三本を使い分け、「デンタルフロス」という歯と歯の間専用の絹糸や、針金にたくさんの毛をつけた歯間ブラシを巧みに使って歯磨きしている歯科医師でさえ、完全ではありません。口腔内カメラという小さなカメラで歯の表面を見ると、外からは見えない所で細菌の集団である歯こうの付着が観察されます。細菌たちの隠れ家は歯の周りに無数にあります。そのすべてを歯ブラシで清掃するのは、とても難しいのです。

    歯ブラシの持ち方はいろいろありますが、大事なのは両手を使って磨くことです。利き手だけで全体の歯磨きをするのはとても大変です。右利きの人が右上の奥歯の内側を磨くのも右下の奥歯の内側を磨くのも難しいでしょう。左手でやると、ずっと楽にでき、効率も良くなります。左右の手を使い、左右対称に歯ブラシを使うように日々練習すれば次第にベストの歯磨きが身につくでしょう。

    もっとも大切なことは、一本一本の歯の生活環境と病歴を考慮しながら、一本一本愛情を込めて磨くことだと思います。平たく言えば、それぞれの歯は生えてきたときから、何十年も使用する間に虫歯や歯周病、歯並びなどの個別の経歴を持っています。それを十分に考え、それぞれの歯にあった歯磨きを行うということです。

    一般の人々には理解しにくいかもしれませんが、自分の口の中を鏡でよく観察すれば、それぞれの歯がどんな環境にあって、どんな健康状態かが分かってきます。よく分からなければ、かかりつけの歯医者さんに自分の歯の健康状態と注意すべき歯について細かく尋ねたらよいでしょう。

    例えば、上のあごに5本の歯が残っていて、その中の一本がまるで広い高原の中の一本の大樹のように、上あごの奥に一本残っているとします。それに部分入れ歯の金具が掛かっていれば、この一本の大樹のような歯に、食事をするとき、どんな力が加わっているでしょうか。どんな歯磨きをすればよいかを十分に考え、実行すれば、歯の健康維持につながるでしょう。この大樹のような歯の健康を保つには、どんな道具を使えばよいか、どの部分が弱りやすいか、よく考えて手入れをしてください。

    そのような考えに基づいて、歯こうの除去や歯磨きをすれば歯の健康を保つことができます。一つ一つの歯は、まるで山野の木々のように、一つ一つが違った環境の中にあり、違った性質を持っていることを忘れないでください。

    こうしてベストな歯磨きができるようになれば、歯の健康を手中にしたと言っても過言ではないでしょう。

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