• 第四十回仏教文化講演会 五木寛之先生

    私の従兄弟(いとこ)田中潮佑は久留米市内の妙正寺で以前から住職をやっておりますが、今では偉くなって久留米市仏教会会長を務めています。そのお寺から毎月送ってくる法要の案内を見ていると、次の仏教文化講演会で団塊の世代の人間なら知らないものはいない位有名で人気作家であったあの五木寛之の名前が講師として書いてある。これはきっと面白い話が聞けるだろうという事になって、早速家内と二人で講演を聴いてきました。
    五木寛之氏は一九三二年生まれ、福岡県八女の出身で、戦後朝鮮より引き揚げ早稲田大学文学部露文学科に進学します。一九六六年「さらばモスクワ愚連隊」で小説現代新人賞、「蒼ざめた馬を見よ」で第五十六回直木賞受賞。「青春の門」で吉川英治文学賞を受けられています。代表作は「朱鷺の墓」「戒厳令の夜」「風の王国」「蓮如」「大河の一滴」などがあります。
    女性のアナウンスで五木先生のご紹介が流れると、早速壇上に五木先生が現れました。その風貌の若々しいこと、「・・・・私も今年で八十一歳になりました」その瞬間場内にはどよめきと拍手が起こりました。その声ははりがあって、とても八十の高齢には思えませんでした。
    「・・・えー、いろんな所で講演をやって参りましたが、その紹介のやり方も地方によってはいろいろあるものであります。ある時はこんなことがありました。紹介をやって下さった方は地元の有力者で高齢の方でありましたが、その方は「・・・若くして文壇に入られ・・・」とおしゃられたつもりだったんでしょう。ところが、えーその方が、「・・・・・若くしてぶつだん(仏壇)に入られ・・・・」と言われたものだから、会場は大爆笑になり、私は故人にされてしまいました。・・・・・・・・・えーまたある時は、こんなことがありました。長々と紹介をされ、この方は女性のアナウンサーの方でしたが、私が子供の頃に北朝鮮から引き揚げてきたことを言ってあるのでしょうが、その時の苦労話で盛り上がって、聞くも涙、語るも涙の雰囲気になってしまいました。・・・・・後でそのアナウンサーに「あなたは日頃どんなお仕事をしてあるのですか」と聞いたところ、「私はお葬式のアナウンサーをしています」と言われたから、納得した次第でございました」
    「・・・・・仏様のことを仏陀と言いますが、これはヴッドゥという動詞から来ていると思われますが、悟りを開くという意味の他に、つぼみが花開くという素晴らしい意味合いがあるんですね、・・・・・・・・・・仏教の教えの根底には苦というものがあるんですね・・・・・・・・・・・・・・・・阪神大震災の新聞の記事の中に童話詩人金子みすずの「大漁」という詩が書いてありました・・・・・・その中に・・・・港は久々に大漁で、次々に帰ってくる漁船は沢山の秋刀魚や鯖であふれている・・・・・港で待っていた家族や子供たちの顔もみんな喜びにあふれていて、港全体がわきあがっている・・・・・・・・・そしてですね、数行あけて最後に・・・・・・今頃暗い海の底では魚達の家族が悲嘆にくれて弔いの儀式をしているだろう・・・・・・・・という言葉で終わっているんですね・・・・・・金子みすずはこういうふうにあらゆる生き物の悲しみに非常に敏感な人であったんですね・・・・・・・」
    「・・・・・・これは人から聞いた話ですが、オウム真理教に入信して今は投獄されている息子のご両親の話ですが、このお父さんは大変優しい方で息子の部屋にあったすべての書類や書籍の内容をご自分のノートに書き写してですね、どうして息子があのような犯罪に走っていったのかを懸命に考えられて、拘置所での面会の時に、「お前の帰りを10年かかろうが20年かかろうが30年かかろうが、きっと生き続けて待っているから」と言われたそうです。お母さんの方は、ただ息子の手を取って無言のまま涙を流されるだけであったそうです・・・・・・」
    「お父さんの慈のこころに対して、お母さんの悲のこころは対をなすものなんですね・・・・・・・どちらも切っても切れない関係なんですね・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・最近になって思うことですが、世界にある大きな宗教というものは、その教祖の亡くなられた年齢と大きな関わりがあるのではないかと思われるんですね、たとえばキリストは三十くらいで亡くなられたと思いますが、キリスト教には若々しい馥郁とした匂いがあるんですね、・・・・・・・・・イスラム教のマホメットは五十くらいで亡くなられたと思いますが、イスラム教には働く者の実業家の日々の教えが事細かに説いてあるんですね・・・・・・・・・・・・・・そして仏教のお釈迦様は八十でお亡くなりになったから、その教えはすべての人間に共通する奥深い悟りの境地を示しておられるわけです・・・・・・・」
    五木先生は、このような有り難いお話を二時間近くも臆することなく、お話になりました。このような優れた立派な文学者が私達の郷土から生まれたことを誇りに思います。今からもお元気で文筆活動を続けられることを陰ながら願っております。

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